ひとり言

「しんせかい」(山下澄人)感想

 

19歳の山下スミトは演劇塾で学ぶため、船に乗って北を目指す。辿り着いた先の【谷】では、俳優や脚本家志望の若者たちが自給自足の共同生活を営んでいた。過酷な肉体労働、【先生】との軋轢、地元女性と動機の間で揺れ動く感情――。思い出すことの痛みと向き合い書かれた表題作のほか、入塾試験前夜の不穏な内面を映し出す短篇を収録。

引用:しんせかい 帯裏より

 

家にあるカバーのかかった本をパッと手に取っただけなので、題字を書いたとされる有名脚本家が誰かとか、舞台のモデルとなった場所を知らずに読み始めました。

私の年代なら名前を聞いたらわかる有名なドラマです。それを知っているか知らないかで話の印象が違います。

入学金・授業料は一切かからないけど、2年間共同生活をしながら住む場所を作る、農作業を手伝う、馬の世話をしたりしながら俳優や脚本家の勉強をする場所へ行くだなんて、件の有名作品を知らないとずいぶんと怪しげなところにいくものだと思うわけです。

 

そこで展開する話は、俳優の勉強というより【谷】での過酷な労働や共同生活のことを感じたままに書いてあるだけ。主人公の少しズレた感覚と、本当に俳優になりたかったのか、自分のしていることに意味はあるのかと思いながらも状況を淡々と受け止める姿は、不気味とまではいわないけど少し変な人なのでしょう。

 

対話体で進むかと思っていると、急に主人公が自然の中で感じた意識の描写が密に書かれたりして、決まった文体はなくその時にそう感じたことをそのまま書いてある感じ。子どもの作文のようにも思えるけど、ページを埋める怒涛の描写に引き込まれるような不思議な気持ちで読めます。

話の終わりが唐突にくるので、始めから俳優云々はどうでもよくて、遠い北の地での思い出はこうでしたと印象に残ったところを書き残した小説(?)でした。

では、また次回。